意思決定会計

1-2.セグメント別損益計算と直接原価計算の多目的利用

1-2.セグメント別損益計算と直接原価計算の多目的利用

直接原価計算によれば、セグメント別の損益計算を行うことによって、企業全体の利益に対し各セグメントがどれほど貢献しているか、すなわちセグメント別の収益性を正しく判断できるという長所を持っている。

 短期利益計画において、目標利益を達成するために、次のような意思決定が必要とされる。 ・収益性の高いセグメントに対しては、経営資源を重点的に投入する。 ・収益性の低いセグメントに対しては、 →原価管理その他の手段によって収益性の改善を図る。 Or そのセグメントから撤退する

この意思決定に有用な情報が直接原価計算をセグメント別に実施することによって入手される。

 固定費をその性質に応じて細分し、セグメント別に割り当てることにより直接原価計算方式の損益計算書に示される会計情報はますます有用性が増す。

※ここでセグメントとは、「企業の構成部分」のことをいう。 Ex.部門別、製品品種、事業部、地域など

2015-03-21 | Posted in 意思決定会計No Comments » 

 

1-4.事業部長の業績評価

1-4.事業部長の業績評価

直接原価計算が、企業におけるセグメント別の収益性の測定手段として、極めて有用であることは前述の通りである。そこで、次に直接原価計算に関する知識を前提として、企業における重要なセグメントのひとつとしての事業部の業績、特に事業部長の業績評価について検討を加えていくことにする。

1)事業部長の業績評価基準

A.管理可能利益

事業部長の業績評価基準としてまず考えられるのは、事業部の菅理可能利益である。

この利益は、

管理可能利益=事業部売上高‐変動費‐管理可能個別固定費

と計算される。

しかし、事業部長の業績を利益額の大小だけで測定するのはよくない。なぜならば、資本を多く使用すれば、利益額は多くなるのは当然である。したがって業績評価基準には、事業部使用資本を考慮しなければならない。

B.管理可能投下資本利益率

次に考えられる業績評価基準は、収益性の指標として一般的に使用される投下資本利益率(ROI)であり、ROlを業績評価基準とするには、次の式によって計算する。

管理可能利益

管理可能投下資本利益率=――――――――×100
管理可能投資額

この業績評価基準の特徴は、資本と利益の関係、すなわち収益性を比率(%)で示す点にあり、これは長所ともなり短所ともなる。

まず長所としては、

(1)この評価基準ば、極めて有益な公分母である、という点にある。つまり、収益性をパーセントで示すから、企業内部における他の事業部や、外部の他企業とも、規模に関係なく比較できる。

(2)次にROIは、

利益=利益 × 売上高=(売上高利益率)×(資本回転率)

資本 売上高  資本

に分解できるので、事業部業績のよかった(あるいは悪かった)理由を、販売のマージンと資本の利用度に分解することができ、さらにそれらの構成要素を分析して有用な情報を入手することができる。

ROIの短所は、

(1)事業部長の関心を、利益額の増大よりも比率の増大に向けさせること、

(2)その結果、事業部の利害と全社的な利害が対立し、、目的適合性が失われること、

である。

C.管理可能残余利益(RI)

残余利益(RI)ば、次の式によって計算する。

管理可能残余利益=管理可能利益‐管理可能投資額×資本コスト率

RIを業績評価基準に使用することは、「資本コストを上回る利益の金額を増大せよ」

ということに等しい。

このように残余利益の長所は、

(1)事業部の利益を、使用資本との関連で測定する尺度であること、

(2)事業都の関心を、利益率の増大よりも金額の増大へ向けさせること、

(3)その結果、目的整合性が保たれること、である。

他方、残余利益の短所は、事業部長の業績は、資本と利益に関する収益性という単一の尺度だけで測定できるか、という点にある。

2015-03-21 | Posted in 意思決定会計No Comments » 

 

2.原価の固変分解

2.原価の固変分解

直接原価計算を実施するには、原価の固変分解が行われなければならない。そして、これまでの議論においては、原価を変動費と固定費とに正確に分解できることが前提となってきた。

しかし、現実の企業では、この「原価の正確な固変分解」は容易にはいかない。

そこで、以下に述べるような各種の方法を、必要に応じて併用して実施している。

1)勘定科目実査法(勘定科目精査法)

過去の経験に基づき、決算自的の勘定科目表から現在使用している費用項目を個々に精査して、費目ごとに変動費か固定費かに帰属させる。手続的には簡単であるが、主観的な分解であり、恣意介入の余地がある。

そこで、この方法は、「純粋な固定費または変動費であることが明らかな費目を選び出す」にとどめ、残された費目について他の方法によることが望ましい。

2)工学的方法(IE法)

投入量と産出量との技術的な関係に基づき、発生すべき原価を予測する方法である。新製品の製造原価などは過去の経験が利用できないために、会計的方法や統計的方法が役に立たない。このような場合に、当該方法が有効である。

但し、投入量と産出量との困果関係が間接的で把握し難いときには、その効果が薄れる。また、種々の分解方法の中でも最もコストが高くなる。

3)統計的方法

過去原価の統計的分析による方法で、各種の方法があるが、そのいずれかにおいても、原価と営業量との関係が次のような単純な方程式で表現できることが前提となる。

y=a+bx

x=営業量a=固定費b=変動費率y=原価の総額

a)高低点法

2つの異なった営業量(一般に高点と低点)における原価の比較から、その原価態様を推定する。つまり、最高操業度の点と最低操業度の点を結ぶ直線をもって、原価を固定費と変動費とに分解する方法である。

b)スキャッターチャート法

過去の原価データをグラフ上に記入し、各点の中央に目分量で直線を引き、これから変動費率と固定費額を推定する。この方法は簡単であり、高低点法に比べると、すべての業績データの点を利用して原価直線を決定する点はよいが、いかんせん目分量であり、客観性に欠ける。

c)最小自乗法

b)のために用意したグラフ上の各点を、客観的に一本の線で表わすために、誤差の自乗和を最小にするようにパラメータ値を決める推定方法である。

覚えるべきは、以下の公式である。

公式の覚え方。

・y=a+b x(これが求める原価直線だったはず)を用意する。

・この各項にΣをつける。

(nは業績データの数)

・この各項にΣxをつける。

Σy=na+bΣx

Σxy=aΣx+bΣx2

→連立して解く。

<研究>

直接原価計算はなぜ制度として部分的にしか導入されないのか。

原価計算基準30

総合原価計算における直接原価計算

…「総合原価計算において、必要ある場合には、一期間における製造費用のうち、変動直接質及び変動間接費のみを部門に集計して部門費を計算し、これに期首仕掛品を加えて完成品と期末仕掛品とに按分して製品の直接原価を計算し、固定費を製品に集計しないことができる。

この場合、会計年度末においては、当該会計期間に発生した固定費額は、これを期末の仕掛品及び当年度の売上品とに配賦する。」

このように、直接原価計算を認めながらも、最終的には、固定費調整を必要としており、全面的には認められていない。

<理由>

①原価の固変分解の客観性の確保が困難なため。

②全部原価の原則(基準六)に反するため。

2015-03-21 | Posted in 意思決定会計No Comments » 

 

3.価格決定

3.価格決定

1.価格決定の意義

(1)価格決定目的の重要性

価格決定あるいは価格政策は古くから原価計算の重要な目的の一つとされてきた。

今日、原価計算目的はその生成の時期に比してはるかに複雑かつ多面的になっているとはいえ、価格決定目的の重要性が失われたわけでは全くない。すなわち、現代の企業は急速な技術革新・製品需要の急激な変化、過剰生産能力の傾向と、これらにともなう競争の激化のうちに、企業の存続と発展を図っていかねばならない。こうした事情において、企業の競争的活動では製品開発、販売促進及び価格政策の面が重視され、これらの相互的関連での価格決定の重要性がクローズ・アップされてくるのである。

(2)価格決定の意義

価格決定は、いくらの価格をつけたらある利益が上がるかを問題とする狭義の価格決定と、ある価格で利益がどれほどあがるかを考える価格考慮とに分けることができる。ここで扱うのは、狭義の価格決定である。

狭義の価格決定

達成すべき利益目標を出発点として、それを達成し得る価格を決定すること。

(利益)→(原価)→(価格)と表わし得る。

2.価格決定の方法

原価計算の価格決定目的に対する役割は、価格決定に有用な原価情報を提供することにある。かかる原価によって価格を直接に決定する方法、あるいは評価する方法は一般に原価・価格決定法と呼ぱれる。

価格決定の方法には、各種あるが、ここでは全部原価基準による価格決定と部分原価基準による価格決定について取り上げる。

全部原価基準にょる価格決定

目標価格=製品単位当たり総原価十製品単位当たり目標利益

=製品単位当たり総原価×(1十目標マーク・ァップ率)

部分原価基準にょる価格決定

目標価格=製品単位当たり変動費十製品単位当たり目標限界利益

=製品単位当たり変動費十(固定費+投下資本×目標投下資本利益率)/予想販売量

=製品単位当たり変動費×(1+目標マーク・ァップ率)

両方法の比較

全部原価による価格決定

長所

・固定費の回収を含むので、長期的・正常的な価格決定に適する。

・全部原価に加算する利益幅さえ正当なら杜会的承認が得られる。

・市場での需要と価格の関係が未知な段賭での試行錯誤的価格決定に適する。

短所

・固定費の回収により、製品国有の収益性が不明確になる。

・それにともない、限界利益は正なのに、(つまり固定費の回収に貢献するのに)全部原価を回収できないことを根拠に受注・生産をしない恐れがある。

・また、受注価格が全部原価を上回っても、操業度が低ければ固定費は回収で

きない。このことを忘れ、操業度拡大の努力を怠る恐れもある。

部分原価による価格決定

長所

・固定費の配賦を回避するので、製品固有の収益性が明確になる。

・それにともない、製品固有の収益性に応じて固定費を回収するように、弾力的な価格決定が行える。

・CVP分析が行える。

短所

・弾力的な価格決定が可能なだけに、競争を激化させる恐れがある。(安売り競争→共倒れ)

・長期的には固定費をも回収する必妻があるのに、そのことを忘れてしまう恐れがある。

<参考>価格最低限

ある製品の生産販売を続行するよりも、中止したほうが、有利となるような限界的な価格

 

2015-03-21 | Posted in 意思決定会計No Comments » 

 

4.セールスミックス

4.最適セールス・ミックス

1.概要

セグメント別損益計算において、セグメント別の収益性は明らかになった。しかし、「それでは、どのセグメントに経営資源を重点的に投入するか」を決定するには、これまでに学んだ各種の収益性指標(限界利益額または率、事業部利益など)だけでは不十分である。なぜならば、各種の経営資源には様々な制約条件が伴うものだからである。

今考察の対象にしているのは短期利益計画だから、例えば、機械運転時間は無制限に大きく取れるものではない。現有機械設備の能力以上に使いたければ、設備投資をしなければならず、これは短期利益計画の枠外の話になる。

このような様々な制約条件の下で、収益を最大化する製品の組み合わせを選択することを、最適セールス・ミックスの決定という。

2.線形計画法(リニァ・プログラミング:LP)

(1)意義

線形計画法とは、いくつかの制約条件の下で利益を最大にするか、あるいは、原価を最小にする変数の値を求める問題において、制約条件が、連立一次方程式または、不等式の形で与えられ、最大または、最小にする目的関数もまた一次式で示されるとき、その最適解を求める方法である。すなわち、希少資源の最適配分の問題を解く手法である。

(2)計算要素

a)目的関数

目的関数とは、企業全体として得る利益を最大にするための条件式であり、通常、

Max Z=MPx・X+MPY・Y

MPx:製品Xの限界利益

MPY:製品Yの限界利益

X:製品Xの生産量

Y:製品Yの生産量

b)制約条件式

企業にとっての機械の使用可能時間、希少資源の投入量、製品の販売数量等種々の制約条件をリニアー・プログラミングが適用できるよう定式化したものが、制約条件式である。

c)非負条件式

各製品の生産量は、「0」であっても、負になることは考えられない。そこでこれを式によって示すと、X≧0,Y≧0となる。

(3)計算方法と適用条件

・制約条件が一つしか存在しない場合

その制約条件一単位あたりの限界利益が最も大きい製品を優先して製造・販売することが、収益を最大化する。

例えぱ、

・販売数量に上限があるなら、製品1個あたり限界利益が最大の製品を、

・販売金額(売上高)に上限があるなら、売上1円あたりの限界利益が最大の製品を、

・労働時間に上限があるなら、作業1時問あたりの限界利益が最大の製品を、

・機械稼働時間に上限があるなら、機械稼働1時間あたりの限界利益が最大の製品を、

選択することが収益を最大化する。

・制約条件が複数存在する場合

製品が2っの場合は、図解法

製品が3つ以上の場合は、シンプレックス法

が用いられる。

(4)図解法

図解法において、重要な点は、

凸多角形上で定義される線形関数の最大値はその端点にある。

という点にある。

解法の手順

(1)制約条件、目的関数、非負条件の定式化

(2)図の作成

(3)最大値の発見

(4)最適解の算出

2015-03-21 | Posted in 意思決定会計No Comments » 

 

5.差額原価収益分析

5.差額原価収益分析

1.経営意思決定の意義

企業経営上、経営管理者が経常的に必要とする会計情報は、利益管理、原価管理及び公開財務諸表作成のための情報である。これらの会計情報は、複式簿記や原価計算制度のような正規の会計制度によって提供される。これに対して新たな製品品種を追加すべきか、既存製品品種の一部の生産販売を中止すべきか、というような特殊の非反復的意思決定に経営者は迫られることがあるが、かかる経営者の非反復的意思決定を経営意思決定という。

★意思決定のプロセス

一般に、意思決定そのものの手続きは、基本的には次のようなプロセスからなる。

1)間題の確認

2)問題を解決するための諸代昔案の列挙

3)諸代替案の数量化

4)諸代替案の比較・検討及び最有利案の選択

5)数量化し得ない要素の考慮

6)担当経営管理者による採決

上記の意思決定過程において、意思決定会計、ここでは差額原価収益分析が主要な役割を演ずるのは、3)、4)の段階である。

2.意思決定の種類

(1)業務的意思決定(または戦術的意思決定)

与えられた経営構造の基礎の上に、常時反復的に展開される業務活動の個々の部分についての意思決定であって、生産販売能カの変更を伴わないような、

・自製か外注か

・新製品の追加または旧製品の廃棄

・追加加工かそのまま販売か

・賃貸か自社営業か

・受注か拒杏か

などについての意思決定が合まれる。

(2)構造的意思決定(または戦略的意思決定)

経営の基本構造の変化をもたらす意思決定であって、

・経営給付の内容についての意思決定

・経営立地についての意思決定

・主要な生産販売設備の新設、取替、廃案についての意思決定

・経営組織構造についての意思決定

などがこれに含まれる。

3.差額原価収益分析の種類

差額原価収益分析には

貨幣の時間価値を考慮しない差額原価収益分析

貨幣の時間価値を考慮する差額原価収益分析

とがある。

4.差額原価収益分析の特徴

代替案の計量的分析においては、収益または原価の「変動幅」に注意が集中される。すなわち、代替案の選択においては、

・ある代替葉の選択によって変化する収益または原価要素

が間題となり、

・いずれの代替案を選択しても変化がない収益または原価要素

は、検討する必要がないのである。

そこで、差額原価収益分析は、次の特徴を有する。

1)差額原価収益分析の基本概念は、未来増分利益である。

意思決定は未来に関するから、そのための差額原価収益分析も、「代替案をとったならば発生するであろう未来の利益」の分析である。

2)差額原価収益分析での増分利益は、制度会計的な枠組みに限定しない実質的な内容の利益を算定する。

代替案の実質的な利益の評価のため、特殊原価概念が活用される。

さらに、意思決定の影響が長期にわたる場合には、実質的利益算定のため次の二点に注意することが必要になる。

1)増分利益の算定と分析は、その意思決定によって直接に影響を受ける期間の長さの全体について行われること。

2)収益と原価は、それが発生するときによって同じ金額でも同じ価値ではない。しかし、短期におけるこの業務的意思決定においては、これを無視する。

5.意思決定のための原価(特殊原価概念)

企業の会計制度において収集されそこから提供される原価は、過去の原価記録である。この記録原価は、「支出原価」という本質を持つ。

この支出原価は、過去の貨幣支出をとらえた概念であり、財務諸表作成目的には最も有用な概念である。

したがって、原価計算制度において、原価が支出原価の本質を持つのは当然のことであるといえる。

しかし、意思決定は、未来に向かってなされるものであり、過去の貨幣支出に直拮した歴史的原価は将来の意思決定に不向きである。

それゆえ、財務諸表作成に用いられた歴史的原価は、意思決定のための基礎資科となることはあっても、「そのまま」の形で意思決定に用いることは妥当ではない。

「異なる目的には異なる原価」が用いられるべきなのである。そして、意思決定のための原価は、特定の状況において用いられる特殊目的の原価であり、普遍的適用性がなく、特殊原価あるいは意思決定原価と呼ばれる。

このような特殊原価概念には、種々のものがあるが、その代表的なものを挙げておく。

1)未来原価・・・後日発生すると予期される原価

2)増分原価・・・意思決定において、代替案によって変化する原価

3)差額原価・・・同上

4)機会原価・・・諸代替案のうち一つを受け入れ、他を断念した結果、失われる最大の利益

5)埋没原価・・・意思決定にとって関係のない原価(無関連原価)

6)付加原価・・・財務会計記録に現れることはないが、経営価値を測定し得る原価

7)現金支出原価・・・経営者の行う一定の意思決定に関して、現金支出を生じせしめる原価

8)回避可能原価・・・経営目的達成のために、必ずしも必要とはならない原価

9)延期可能原価・・・現在の経営活動の能率にはほとんどまたは全く影轡を及ぼさない、将来に延期できる原価

6.差額原価収益分析の適用方法

(1)総額法と差額法

総額法・・・埋没原価(無関連原価)をも含めて計算する方法

差顔法・・・差額原価(差額収益)のみを集計し、計算する方法

2015-03-21 | Posted in 意思決定会計No Comments » 

 

6.設備投資の経済性計算

6.設備投資の経済性計算

1.設備投資の経済性計算の意義

原価計算でいう「設備投資」とは、「経営の基本的構造を変化させる資本的支出」であり、「その経済的効果が長期にわたる支出」をいう。

設備投資に対する支出は、一度決定されると、減価償却費だけでなく、当該支出に対する保険科、固定資産税等の関係する支出も決定されることになる。

こうした支出は一旦投資がなされると、その後に削減することは不可能であり、せいぜい遊休しないよう効率的な利用を図るだけである。そのためにも投資決定時にば慎重な選択が妾求されるのである。

この設備投資に関する意思決定は、トップ・マネジメントによる戦略的意思決定と位置付けられる。

そして、この意思決定のための資科を提供するのが、「設捕投資の経済性計算」である。

2.基礎概念

1)プロジェクト

企業資本の使用に関する個々の提案をプロジェクトと称する。

2)経済命数

プロジェクトには、投資の始点(設捕投資の時点)と終点(設備の除却時点)があるため、財務会計上の継続概念に基づく期間計算は必要ない。したがって、個々のプロジェクトの経済命数全体が対象期間となる。

3)将来の増分現金流出額及び流入額

あるプロジェクトは、設備投資をすれば、やがてはその固定資産は除却される時がくるので、一回限りの性質を持つ。特定の固定資産が永久に使用されることはないからである。

したがって、その損益計算は、10年間使用する設備ならば、10年間の全期間にわたる全体損益を計算すればよい。この計算では、全体損益を計算するのであるから、すべて、現金の入りと出、すなわち収入と支出だけで計算すればよい。

すなわち、いくら支出して、いくら収入があり、結果としていくら手元に残るかという現金の流出入だけ考えればよい。

ただし、将来に関する意思決定を行う以上、将来発生する現金収支のみがこの計算に関係するわけである。

そして、将来発生する現金収支のうち、ある設備投資案を採用する場合と採用しない場合とを比較して、これらの差額である予想増分現金流出入額を用いることが適当である。

4)現在価値

あるプロジェクトに対する投資に対しては、複数年にわたり投資の効果が見込まれ、またプロジェクト期間中には追加の投資が必要となる場合もある。現金の流出及び流入が複数年にわたり予想されるともいえる。このように複数年以上にわたり現金の流出入額が見込まれる場合、貨幣の時間価値を考慮した計算をしなけれぱならない。

すなわち、今1,000,000円もらうのと来年1,000,000円もらうのと、どっちが得か考えよということである。

この例では、今1,000,000円もらう方が得である。なぜならば、今1,000,000円もらって金融機関に預ければ利息分だけ有利だからである。

つまり、様々な時点において現金の流出や流入が生ずるので、それらを単純に加算することはできない。そこで、すべて現在時点に割り引くことにより、時点を合わせて計算する必要がある。

5)資本コスト

設備投資には、資本が必要であり、その資本を使用するにはコストがかかるため、この資本コストを上回る利益をあげるプロジェクトでなければならない。したがって、資本コストは、木不利なプロジェクトを切り捨てるための最低所要投下資本利益率としての役割を持つ。

3.プロジェクトの収益性・安全性の測定

1)単純回収期間法

回収期間=投資による増分現金流出額 / 年々の平均増分現金流入額

「投資額を、年々の増分現金流入額で囲収すると、何年で回収できるか」

を計算し、その回収期間が短いプロジェクトを望ましいと判定する。

計算が簡単であるが、時間価値を考慮していない。

安全性を重視しているが、収益性は考慮していないのが特徴である。

したがって、この方法は、1)投資計画が極めて危険性を帯びている場合、2)企業の財政状態が悪く財務安全牲が重視される場合、3)プロジェクトの数が多いため、あらかじめ有望なブロジェクトとそうでないプロジェクトに分ける必 要がある場合、などにに多く用いられる。

2)単純投下資本利益率法

利益率 = (増分現金流入額合計 - 投資額)÷予想貢献年数 / (投資額 ÷ 2)

投資の影響期間全体にわたっての、ROlを求め、この率が高いものを「望ましい」と判断する。

これも計算は比較的簡単であり、収益性の判断基準となるが、時間価値を考慮していない。

3)内部利益率法

「投資に必要な増分現金流出額の現在価値合計」    と 「投資によって生ずる年々の増分現金流入額の現在価値合計」

とを等しくするような「割引率」を、試行錯誤的に求め、この割引率が高いものを、「望ましい」と判定する。

時間価値を考慮しているが、計算の手間がかがるのが難点である。

4)正味現在価値法

この方法は、投資によって生ずる年々の増分現金流入額を資本コストで割り引くことによって計算した現在価値合計から、投資に必要な増分現金流出額を資本コストで割り引くことによって計算した現在価値合計を差し引いて、正味現在価植を計算し、正味現在価値合計が正であれば、その投資は有利であり、負であれば不利であると判断する方法である。

したがって、正味価値現在価値の大なるプロジェクトばど有利であると判断される。

4.タックス・シールズ

設捕投資の経済性計算においては、ある投資案を採用する場合に発生すると予想される現金収支と、その案を採用しない場合に発生すると予想される現金収支との差額、すなわち、予想増分キャッシュ・フローが適切なデータとなる。

したがって、増分キャッシュ・フローのデータは、発生主義会計における収益や費用のデータとは明確に区別されなければならない。

会計上の利益の計算においては、減価償却費は、期間費用として売上収入から差し引かれるが、キャッシュ・フロー計算上は、減価償却費は、非現金支出費用なので、売上収入から差し引くべきではない。

そこで、会計上の純利益から、その期間のキャッシュ・フローを計算するには、すでに差し引いた減価償却費を加え戻さなければならない。

他方、法人税は現金支出を伴うので、キャッシュ・フロー計算に含めなければならない。

上でも述べたが、設備投資の経済性計算においては、利益または原価節約額は予想増分キャッシュ・フローで計算しなければならない。減価償却費は現金支出を伴わない原価であるから、投資による利益または原価節約額の計算に対し、これを計上してはならない。

しかし、全く無関係になるわけではなく、法人税支払額に影響を与えるのである。

投資の経済性計算においては、税引後の増分キャッシュ・フローを現在価値に割り引いて計算するからである。

【法人税支払額に影響を与えることの具体的意味】

減価償却費控除前の利益額 1,000(あるプロジェクトを採用することによって生ずる収入に相当すると仮定) 減価償却費 500 (あるプロジェクトを採用することによって生ずる減価償却費) 法人税率 50% と仮定する。

1)減価償却費が計上されないケース(=あるプロジェクトを採用しない場合)

キャッシュフロー = 1000-1000×(1-50%) = 500

2)減価償却費が計上されるケース

キャッシュフロー = (1,000ー500)×50% +500 =750

以上から減価償却費が計上されるケースの場合がキャッシュフローが250多いことがわかる。

それはなぜか。

ケース1)においては、法人税支払額は500なのに対して ケース2)においては、法人税支払額が250である。

つまり、減価償却費の計上により法人税支払額が節約されていると考えることができる。

これをタックス・シールド(法人税流出節約額)と呼ぶ。

計算式

一般的には(単純化して考えると)次のように考えればよい。

法人税=純利益×法人税率

純利益=売上高-現金支出費用-非現金支出費用

したがって、設備投資の経済性計算で使用する税引き後の純増分現金流入額は次の式で計算される。

税引き後の純増分現金流入額

=売上高-現金支出費用-法人税

=売上高-現金支出費用-法人税率×(売上高-現金支出費用-非現金支出費用)

=(1-法人税率)×(売上高-現金支出費用) +法人税率×非現金支出費用

※”法人税率×非現金支出費用”がタックス・シールドに相当する。

以上

2015-03-21 | Posted in 意思決定会計No Comments » 

 

1-1.限界利益(貢献利益)の重要性

1-1.限界利益(貢献利益)の重要性

短期利益計画に役立つ適切な会計惜報は、原価・営業量(売上高)・利益の三者の相互関係についての情報である。そしてその中でも利益は、原価と営業量の関係から結果として求められるので、原価と営業量の関係こそ、短期利益計画にとって核心的な情報である。

◆短期利益計画◆  短期利益計画とは、「企業内外の諸条件を所与とした上で、次年度の目標利益をいくらにするか、またはこれをどうやって実現するか」を計画したものをいう。  この計画に必要な会計情報を提供することが原価計算に求められている。  短期利益計画にとって、適切な会計情報は、「製品をどれほど販売したらいくら原価ががかり、したがっていくら利益が得られるか」についての情報や、「利益をこれだけ獲得したい、そのためにはいくら販売したらよいのか」、つまり「原価・営業量・利益の関係」についての情報である。

そこで、短期利益計画にとっては、原価は営業量の変化に応じてどのように反応するかという観点、つまり原価態様(コスト・ビヘイビァー)の観点から変動費と固定費とに分類される。  しかし、原価を発生源泉(=原価は、どこから何のために発生するか)という観点から、変動査、固定費を見直してみる。

◆キャパシティ・コストの概念◆  変動費は、業務活動(生産活動と販売活動)を行えぱ発生し、行わなけれぱ発生しない原価であるといえる。変動費の典型的な例は、原材料費である。原材料費は、製品を生産すれば発生し、生産しなければ発生しない。  したがって、変動費は、アクテイビテイ・コスト(Activity Cost:活動原価)であるといえよう。  これに対して固定費は、業務活動を行おうと、行うまいと、一定の生産・販売力を維持しようとする限り、業務活動とは無関係に発生する原価である。  固定費の典型的な例は、定額法によった場合の機械設備の減価償却費である。  この原価は、生産を全然しなくても、設備を保有している限り毎月同額ずつ発生する。  したがって、固定費は、キャパシティ・コスト(Capacity Cost:能力原価)であるといえよう。

さて、経営者の立場からすると、変動費と固定費のうち、どちらの原価から先に回収したいと思うであろうか。

変動費は、業務活動原価(略して「活動原価」ともいう)であり、通常、それは短期現金支出原価である。つまり、変動費は、直接材料費や直接労務費の実際の支払いについて考えれば分かるように、即座か、あるいは近い将来に現金で支払わなければならない原価からなっている。したがって、反復して生産・販売活動を続けようとする限り、売上高からまず変動費を回収しなければならない。つまり、直接材料費を回収しないと、再生産のための材料を購入できないし、仕入代金の返済にも窮することになりかねないからである。

これに対して固定費は、キャパシティ・コストであり、その大部分は長期非現金支出原価からなっている。耐用年数10年の機械設備の減価償却費を例にとれば、その取得原価から残存価額を差し引いて計算した要償却額を、10年間かかって回収すればよいわけであって、ある月の減価償却費を回収できなかったからといって、その会社が直ちにつぶれてしまうわけではない。かくして企業経営者にとっては、変動費は先に回収すべき原価であり、固定費は後回しにしてもよい原価である。

そこで、売上高から先に回収すべき変動費を差し引き、その残り、すなわち限界利益(貢献利益)によって、固定費を回収して利益をあげる、とするのが経営者の考え方であろう。

かくして、限界利益(貢献利益)こそが、短期利益計画において中心的役割を果たす利益概念である。 そして、この考え方を損益計算書にしたものを「直接原価計算方式の損益計算書」という。

全社レベルの損益計算書

1.売上高        XXX
2.変動売上原価   XXX
変動製造マージン   XXX
3.変動販売費     XXX
限界利益(貢献利益)  XXX
4.画定費
1)固定製造間接費   XXX
2)固定販売費及び一般管理費 XXX
営業利益         XXX

★なお、ここでの限界利益と貢献利益の概念はほぼ同義である。

「限界利益」Marginal Profit(MP) 売上が一つ増えた時に変化する利益額

2015-03-21 | Posted in 意思決定会計No Comments » 

 

1-3.固定費の細分と固定費の段階的差引計算

1-3.固定費の細分と固定費の段階的差引計算

1)個別固定費、共通固定費と事業部利益

ただ固定費とはいっても、すべてが全社レベルで発生したものではない。そこで、固定費は、セグメントとの関連において、共通費固定費と個別共通費とに分類される。

◆個別固定費◆ すなわち個別固定費とは、なるほど固定費ではあるが、各セグメントに直接跡づけられる原価である。例えばセグメントを製品品種とするとき、特定の品種のみの製造に必要な特殊機械の減価償却費、あるいはセグメントを事業部とすれば、特定の事業部の部長の給料等を挙げることができる。 そして、個別固定費は、そのセグメントから撤退した場合に発生しなくなる固定費である。

◆共通固定費◆ これに対して共通固定費とは、各セグメントに共通して発生する固定費である。例えば、本社の建物の減価償却費や固定資産税などがその例である。 そこで、固定費を限界利益から一括的に差し引かずに、まず、限界利益から個別固定費を差し引いて計算された利益を「事業部利益」と呼ぶことにする。

事業部利益=事業部売上高‐変動費‐個別固定費

 また、この利益は、貫献利益と呼ばれることもある。ここでの貢献利益の定義は、共通固定費を回収して利益の獲得に貢献する利益、となる。

【参考】 限界利益と同義の貫献利益の定義は、固定費を回収して利益の獲得に貢献する利益である。したがって、貢献利益は様々な場面で用いられる広義の利益概念である。

このような事業部利益は、各事業部の売上高から各事業部で固有に発生する変動費と固定費とを差し引くことによって計算された事業部固有の利益である。この利益は、その事業部が各事業部に共通に発生する固定費を回収しさらに利益を獲得するためにどれほど貢献しているかを示す額にほかならない。

この金額により経営者は企業全体の収益に対する各事業部の貢献度を知ることができる。

2)マネジド・コストとコミッテッド・コスト

全部原価計算では、固定製造間接費は配賦手続きを通じて製品に配賦計算されるから、製造間接費が総額で示されることはない。

これに対し、直接原価計算では、原価が変勤費と固定費とに分類され、固定費が期間費用として一括表示される(製品にばらまかれない)。そのため、経営管理者にとっては固定費の管理がしやすくなったとともに、関心が集中した。

そこで、固定費管理を有効に進めるためには、セグメント別個別固定費をさらに、マネジド・コスト(自由裁量固定費)、コミッテッド・コスト(拘束固定費)とに分類するのが有用である。同じ個別固定費でも、両者はその管理方法が異なるからである。

◆コミッテッド・コスト◆  コミッテッド・コストとは、過去に行われた経営管理者の意思決定によってその発生が拘束されるものである。物的設備及び人的資源に関連し、長期間にわたり、総額で一定額発生する原価である。 具体的には、減価償却費、固定資産税、長期契約の賃借科、火災保険科、重要な職員の給料などがその代表例である。

<管理方法> 一且設備投資がなされれば、それに伴う減価償却費などは耐用年数の全期間にわたって発生する。また、短期的には管理不能な原価であり、後から都合でその発生額を変えることはできない。 つまり、コミッテッド・コストの発生原困は、設備投資の意思決定にある。 したがって、その有効な管理は、設備投資の段階と、除却の段階において、効率的な意思決定をすることに、その大半がかかっている。その途中の期間においては、設備を遊休させないように努力する以外に方法はない。

◆マネジド・コスト◆  マネジド・コストとは、プログラムド・コストあるいは自由裁量固定費といわれる原価であって、その原価の投入とそれによって生ずる効果との最適な関係が不明なために、経理管理者がそれぞれの方針によってその発生額を年度予算の中で定めざるを得ない原価である。

具体的には、広告費、試験研究費、従業員訓練費、交際費などがその代表例である。

例えぱ、広告費にしても、どれほどかければどのくらい売り上げが伸びるかというインプットとアウトプットの最適な関係がわからないために、年間の広告費は、経営者がその経営方針に従って決定する。

したがって、これらのコストはコミッテッド・コストと異なり、短期的な管理が可能であり、万一不況にでもなれぱ短期問に大幅に削減することも可能である。

<管理方法> マネジド・コストは、固定予算で管理せざるを得ず、また、予算どおりコストをかけれぱそれでよいというものでもない。なぜならその効果が、得られたかどうかが重要なのである。 そこで、有能な経営菅理者が主観的・個別的にその効果を判断するしかないであろう。

したがって、短期的に変化せしめうるコストと変化せしめ得ないコストとに分けたような損益計算書を作成しておけば、きわめて有用な短期利益計画用の情報が得られることになる。

3)管理可能固定費と管理不能固定費

短期利益統制のためには、セグメント別個別固定費はそのセグメントの長にとって管理可能か不能かという観点から、管理可能固定費と管理不能固定費とに分類されるべきである。

管理可能個別固定費・・・当該事業部の研究開発費、広告宣伝費、維持運営費、人件費等 事業部長が管理権限を有する固定費である。

管理不能個別固定費・・・当該事業部の固定資産に関する減価償却費、保険科、固定資産 税等、事業部長は管理できないが当該事業部で個別に消費している固定費

【参考】共通固定費→管理不能費   本社費など当該事業部で個別に消費しているわけではなく、なんらかの基準で配賦されている固定費

また、マネジド・コストは、一般に管理可能回定費であるが、コミッテッド・コストは、管理不能固定費だけでなく、管理可能固定費もある。

4)各種の利益概念

次に、事業部をセグメントとした場合の、業績評価用損益計算書における、各種の段階的利益の意味するところを説明する。

A.管理可能利益 管理可能利益は、この事業部長の業績測定のために計算された利益であり、事業部長が管理可能な利益金額を示す。管理可能利益は、事業部長利益とも呼ばれ、事業部長の業績評価を示す指標となるものである。

すなわち、売上高はこの事業部長の責任であり、変動売上原価及ぴ変動販売費、管理可能個別固定費はすべて管理可能原価である。そこて、管理可能利益ば、管理可能収益から管理可能原価を差し引いた金額として与えられる。

さらに菅理可能利益も、一種の貫献利益であることを付け加えておく。管理可能利益は、管理不能個別固定費及ぴ共通固定費配賦額を回収し、全社的利益を生み出すための、事業部長の貢献額を示している。

B.事業部利益(セグメント・マージン) 当該事業部の直接的な利益業績を示す。 但し、管理不能費を含んでいるので、事業部長の業績を評価する基準とはなり得ない。

C.事業部営業利益 当該事業部の最終業績を示す。売上高から総原価を差し引いた金額である。

2015-03-21 | Posted in 意思決定会計No Comments »