意思決定会計
6.設備投資の経済性計算
6.設備投資の経済性計算
1.設備投資の経済性計算の意義
原価計算でいう「設備投資」とは、「経営の基本的構造を変化させる資本的支出」であり、「その経済的効果が長期にわたる支出」をいう。
設備投資に対する支出は、一度決定されると、減価償却費だけでなく、当該支出に対する保険科、固定資産税等の関係する支出も決定されることになる。
こうした支出は一旦投資がなされると、その後に削減することは不可能であり、せいぜい遊休しないよう効率的な利用を図るだけである。そのためにも投資決定時にば慎重な選択が妾求されるのである。
この設備投資に関する意思決定は、トップ・マネジメントによる戦略的意思決定と位置付けられる。
そして、この意思決定のための資科を提供するのが、「設捕投資の経済性計算」である。
2.基礎概念
1)プロジェクト
企業資本の使用に関する個々の提案をプロジェクトと称する。
2)経済命数
プロジェクトには、投資の始点(設捕投資の時点)と終点(設備の除却時点)があるため、財務会計上の継続概念に基づく期間計算は必要ない。したがって、個々のプロジェクトの経済命数全体が対象期間となる。
3)将来の増分現金流出額及び流入額
あるプロジェクトは、設備投資をすれば、やがてはその固定資産は除却される時がくるので、一回限りの性質を持つ。特定の固定資産が永久に使用されることはないからである。
したがって、その損益計算は、10年間使用する設備ならば、10年間の全期間にわたる全体損益を計算すればよい。この計算では、全体損益を計算するのであるから、すべて、現金の入りと出、すなわち収入と支出だけで計算すればよい。
すなわち、いくら支出して、いくら収入があり、結果としていくら手元に残るかという現金の流出入だけ考えればよい。
ただし、将来に関する意思決定を行う以上、将来発生する現金収支のみがこの計算に関係するわけである。
そして、将来発生する現金収支のうち、ある設備投資案を採用する場合と採用しない場合とを比較して、これらの差額である予想増分現金流出入額を用いることが適当である。
4)現在価値
あるプロジェクトに対する投資に対しては、複数年にわたり投資の効果が見込まれ、またプロジェクト期間中には追加の投資が必要となる場合もある。現金の流出及び流入が複数年にわたり予想されるともいえる。このように複数年以上にわたり現金の流出入額が見込まれる場合、貨幣の時間価値を考慮した計算をしなけれぱならない。
すなわち、今1,000,000円もらうのと来年1,000,000円もらうのと、どっちが得か考えよということである。
この例では、今1,000,000円もらう方が得である。なぜならば、今1,000,000円もらって金融機関に預ければ利息分だけ有利だからである。
つまり、様々な時点において現金の流出や流入が生ずるので、それらを単純に加算することはできない。そこで、すべて現在時点に割り引くことにより、時点を合わせて計算する必要がある。
5)資本コスト
設備投資には、資本が必要であり、その資本を使用するにはコストがかかるため、この資本コストを上回る利益をあげるプロジェクトでなければならない。したがって、資本コストは、木不利なプロジェクトを切り捨てるための最低所要投下資本利益率としての役割を持つ。
3.プロジェクトの収益性・安全性の測定
1)単純回収期間法
回収期間=投資による増分現金流出額 / 年々の平均増分現金流入額
「投資額を、年々の増分現金流入額で囲収すると、何年で回収できるか」
を計算し、その回収期間が短いプロジェクトを望ましいと判定する。
計算が簡単であるが、時間価値を考慮していない。
安全性を重視しているが、収益性は考慮していないのが特徴である。
したがって、この方法は、1)投資計画が極めて危険性を帯びている場合、2)企業の財政状態が悪く財務安全牲が重視される場合、3)プロジェクトの数が多いため、あらかじめ有望なブロジェクトとそうでないプロジェクトに分ける必 要がある場合、などにに多く用いられる。
2)単純投下資本利益率法
利益率 = (増分現金流入額合計 - 投資額)÷予想貢献年数 / (投資額 ÷ 2)
投資の影響期間全体にわたっての、ROlを求め、この率が高いものを「望ましい」と判断する。
これも計算は比較的簡単であり、収益性の判断基準となるが、時間価値を考慮していない。
3)内部利益率法
「投資に必要な増分現金流出額の現在価値合計」 と 「投資によって生ずる年々の増分現金流入額の現在価値合計」
とを等しくするような「割引率」を、試行錯誤的に求め、この割引率が高いものを、「望ましい」と判定する。
時間価値を考慮しているが、計算の手間がかがるのが難点である。
4)正味現在価値法
この方法は、投資によって生ずる年々の増分現金流入額を資本コストで割り引くことによって計算した現在価値合計から、投資に必要な増分現金流出額を資本コストで割り引くことによって計算した現在価値合計を差し引いて、正味現在価植を計算し、正味現在価値合計が正であれば、その投資は有利であり、負であれば不利であると判断する方法である。
したがって、正味価値現在価値の大なるプロジェクトばど有利であると判断される。
4.タックス・シールズ
設捕投資の経済性計算においては、ある投資案を採用する場合に発生すると予想される現金収支と、その案を採用しない場合に発生すると予想される現金収支との差額、すなわち、予想増分キャッシュ・フローが適切なデータとなる。
したがって、増分キャッシュ・フローのデータは、発生主義会計における収益や費用のデータとは明確に区別されなければならない。
会計上の利益の計算においては、減価償却費は、期間費用として売上収入から差し引かれるが、キャッシュ・フロー計算上は、減価償却費は、非現金支出費用なので、売上収入から差し引くべきではない。
そこで、会計上の純利益から、その期間のキャッシュ・フローを計算するには、すでに差し引いた減価償却費を加え戻さなければならない。
他方、法人税は現金支出を伴うので、キャッシュ・フロー計算に含めなければならない。
上でも述べたが、設備投資の経済性計算においては、利益または原価節約額は予想増分キャッシュ・フローで計算しなければならない。減価償却費は現金支出を伴わない原価であるから、投資による利益または原価節約額の計算に対し、これを計上してはならない。
しかし、全く無関係になるわけではなく、法人税支払額に影響を与えるのである。
投資の経済性計算においては、税引後の増分キャッシュ・フローを現在価値に割り引いて計算するからである。
【法人税支払額に影響を与えることの具体的意味】
例
減価償却費控除前の利益額 1,000(あるプロジェクトを採用することによって生ずる収入に相当すると仮定) 減価償却費 500 (あるプロジェクトを採用することによって生ずる減価償却費) 法人税率 50% と仮定する。
1)減価償却費が計上されないケース(=あるプロジェクトを採用しない場合)
キャッシュフロー = 1000-1000×(1-50%) = 500
2)減価償却費が計上されるケース
キャッシュフロー = (1,000ー500)×50% +500 =750
以上から減価償却費が計上されるケースの場合がキャッシュフローが250多いことがわかる。
それはなぜか。
ケース1)においては、法人税支払額は500なのに対して ケース2)においては、法人税支払額が250である。
つまり、減価償却費の計上により法人税支払額が節約されていると考えることができる。
これをタックス・シールド(法人税流出節約額)と呼ぶ。
計算式
一般的には(単純化して考えると)次のように考えればよい。
法人税=純利益×法人税率
純利益=売上高-現金支出費用-非現金支出費用
したがって、設備投資の経済性計算で使用する税引き後の純増分現金流入額は次の式で計算される。
税引き後の純増分現金流入額
=売上高-現金支出費用-法人税
=売上高-現金支出費用-法人税率×(売上高-現金支出費用-非現金支出費用)
=(1-法人税率)×(売上高-現金支出費用) +法人税率×非現金支出費用
※”法人税率×非現金支出費用”がタックス・シールドに相当する。
以上