意思決定会計
5.差額原価収益分析
5.差額原価収益分析
1.経営意思決定の意義
企業経営上、経営管理者が経常的に必要とする会計情報は、利益管理、原価管理及び公開財務諸表作成のための情報である。これらの会計情報は、複式簿記や原価計算制度のような正規の会計制度によって提供される。これに対して新たな製品品種を追加すべきか、既存製品品種の一部の生産販売を中止すべきか、というような特殊の非反復的意思決定に経営者は迫られることがあるが、かかる経営者の非反復的意思決定を経営意思決定という。
★意思決定のプロセス
一般に、意思決定そのものの手続きは、基本的には次のようなプロセスからなる。
1)間題の確認
2)問題を解決するための諸代昔案の列挙
3)諸代替案の数量化
4)諸代替案の比較・検討及び最有利案の選択
5)数量化し得ない要素の考慮
6)担当経営管理者による採決
上記の意思決定過程において、意思決定会計、ここでは差額原価収益分析が主要な役割を演ずるのは、3)、4)の段階である。
2.意思決定の種類
(1)業務的意思決定(または戦術的意思決定)
与えられた経営構造の基礎の上に、常時反復的に展開される業務活動の個々の部分についての意思決定であって、生産販売能カの変更を伴わないような、
・自製か外注か
・新製品の追加または旧製品の廃棄
・追加加工かそのまま販売か
・賃貸か自社営業か
・受注か拒杏か
などについての意思決定が合まれる。
(2)構造的意思決定(または戦略的意思決定)
経営の基本構造の変化をもたらす意思決定であって、
・経営給付の内容についての意思決定
・経営立地についての意思決定
・主要な生産販売設備の新設、取替、廃案についての意思決定
・経営組織構造についての意思決定
などがこれに含まれる。
3.差額原価収益分析の種類
差額原価収益分析には
貨幣の時間価値を考慮しない差額原価収益分析
貨幣の時間価値を考慮する差額原価収益分析
とがある。
4.差額原価収益分析の特徴
代替案の計量的分析においては、収益または原価の「変動幅」に注意が集中される。すなわち、代替案の選択においては、
・ある代替葉の選択によって変化する収益または原価要素
が間題となり、
・いずれの代替案を選択しても変化がない収益または原価要素
は、検討する必要がないのである。
そこで、差額原価収益分析は、次の特徴を有する。
1)差額原価収益分析の基本概念は、未来増分利益である。
意思決定は未来に関するから、そのための差額原価収益分析も、「代替案をとったならば発生するであろう未来の利益」の分析である。
2)差額原価収益分析での増分利益は、制度会計的な枠組みに限定しない実質的な内容の利益を算定する。
代替案の実質的な利益の評価のため、特殊原価概念が活用される。
さらに、意思決定の影響が長期にわたる場合には、実質的利益算定のため次の二点に注意することが必要になる。
1)増分利益の算定と分析は、その意思決定によって直接に影響を受ける期間の長さの全体について行われること。
2)収益と原価は、それが発生するときによって同じ金額でも同じ価値ではない。しかし、短期におけるこの業務的意思決定においては、これを無視する。
5.意思決定のための原価(特殊原価概念)
企業の会計制度において収集されそこから提供される原価は、過去の原価記録である。この記録原価は、「支出原価」という本質を持つ。
この支出原価は、過去の貨幣支出をとらえた概念であり、財務諸表作成目的には最も有用な概念である。
したがって、原価計算制度において、原価が支出原価の本質を持つのは当然のことであるといえる。
しかし、意思決定は、未来に向かってなされるものであり、過去の貨幣支出に直拮した歴史的原価は将来の意思決定に不向きである。
それゆえ、財務諸表作成に用いられた歴史的原価は、意思決定のための基礎資科となることはあっても、「そのまま」の形で意思決定に用いることは妥当ではない。
「異なる目的には異なる原価」が用いられるべきなのである。そして、意思決定のための原価は、特定の状況において用いられる特殊目的の原価であり、普遍的適用性がなく、特殊原価あるいは意思決定原価と呼ばれる。
このような特殊原価概念には、種々のものがあるが、その代表的なものを挙げておく。
1)未来原価・・・後日発生すると予期される原価
2)増分原価・・・意思決定において、代替案によって変化する原価
3)差額原価・・・同上
4)機会原価・・・諸代替案のうち一つを受け入れ、他を断念した結果、失われる最大の利益
5)埋没原価・・・意思決定にとって関係のない原価(無関連原価)
6)付加原価・・・財務会計記録に現れることはないが、経営価値を測定し得る原価
7)現金支出原価・・・経営者の行う一定の意思決定に関して、現金支出を生じせしめる原価
8)回避可能原価・・・経営目的達成のために、必ずしも必要とはならない原価
9)延期可能原価・・・現在の経営活動の能率にはほとんどまたは全く影轡を及ぼさない、将来に延期できる原価
6.差額原価収益分析の適用方法
(1)総額法と差額法
総額法・・・埋没原価(無関連原価)をも含めて計算する方法
差顔法・・・差額原価(差額収益)のみを集計し、計算する方法