意思決定会計

1-3.固定費の細分と固定費の段階的差引計算

1-3.固定費の細分と固定費の段階的差引計算

1)個別固定費、共通固定費と事業部利益

ただ固定費とはいっても、すべてが全社レベルで発生したものではない。そこで、固定費は、セグメントとの関連において、共通費固定費と個別共通費とに分類される。

◆個別固定費◆ すなわち個別固定費とは、なるほど固定費ではあるが、各セグメントに直接跡づけられる原価である。例えばセグメントを製品品種とするとき、特定の品種のみの製造に必要な特殊機械の減価償却費、あるいはセグメントを事業部とすれば、特定の事業部の部長の給料等を挙げることができる。 そして、個別固定費は、そのセグメントから撤退した場合に発生しなくなる固定費である。

◆共通固定費◆ これに対して共通固定費とは、各セグメントに共通して発生する固定費である。例えば、本社の建物の減価償却費や固定資産税などがその例である。 そこで、固定費を限界利益から一括的に差し引かずに、まず、限界利益から個別固定費を差し引いて計算された利益を「事業部利益」と呼ぶことにする。

事業部利益=事業部売上高‐変動費‐個別固定費

 また、この利益は、貫献利益と呼ばれることもある。ここでの貢献利益の定義は、共通固定費を回収して利益の獲得に貢献する利益、となる。

【参考】 限界利益と同義の貫献利益の定義は、固定費を回収して利益の獲得に貢献する利益である。したがって、貢献利益は様々な場面で用いられる広義の利益概念である。

このような事業部利益は、各事業部の売上高から各事業部で固有に発生する変動費と固定費とを差し引くことによって計算された事業部固有の利益である。この利益は、その事業部が各事業部に共通に発生する固定費を回収しさらに利益を獲得するためにどれほど貢献しているかを示す額にほかならない。

この金額により経営者は企業全体の収益に対する各事業部の貢献度を知ることができる。

2)マネジド・コストとコミッテッド・コスト

全部原価計算では、固定製造間接費は配賦手続きを通じて製品に配賦計算されるから、製造間接費が総額で示されることはない。

これに対し、直接原価計算では、原価が変勤費と固定費とに分類され、固定費が期間費用として一括表示される(製品にばらまかれない)。そのため、経営管理者にとっては固定費の管理がしやすくなったとともに、関心が集中した。

そこで、固定費管理を有効に進めるためには、セグメント別個別固定費をさらに、マネジド・コスト(自由裁量固定費)、コミッテッド・コスト(拘束固定費)とに分類するのが有用である。同じ個別固定費でも、両者はその管理方法が異なるからである。

◆コミッテッド・コスト◆  コミッテッド・コストとは、過去に行われた経営管理者の意思決定によってその発生が拘束されるものである。物的設備及び人的資源に関連し、長期間にわたり、総額で一定額発生する原価である。 具体的には、減価償却費、固定資産税、長期契約の賃借科、火災保険科、重要な職員の給料などがその代表例である。

<管理方法> 一且設備投資がなされれば、それに伴う減価償却費などは耐用年数の全期間にわたって発生する。また、短期的には管理不能な原価であり、後から都合でその発生額を変えることはできない。 つまり、コミッテッド・コストの発生原困は、設備投資の意思決定にある。 したがって、その有効な管理は、設備投資の段階と、除却の段階において、効率的な意思決定をすることに、その大半がかかっている。その途中の期間においては、設備を遊休させないように努力する以外に方法はない。

◆マネジド・コスト◆  マネジド・コストとは、プログラムド・コストあるいは自由裁量固定費といわれる原価であって、その原価の投入とそれによって生ずる効果との最適な関係が不明なために、経理管理者がそれぞれの方針によってその発生額を年度予算の中で定めざるを得ない原価である。

具体的には、広告費、試験研究費、従業員訓練費、交際費などがその代表例である。

例えぱ、広告費にしても、どれほどかければどのくらい売り上げが伸びるかというインプットとアウトプットの最適な関係がわからないために、年間の広告費は、経営者がその経営方針に従って決定する。

したがって、これらのコストはコミッテッド・コストと異なり、短期的な管理が可能であり、万一不況にでもなれぱ短期問に大幅に削減することも可能である。

<管理方法> マネジド・コストは、固定予算で管理せざるを得ず、また、予算どおりコストをかけれぱそれでよいというものでもない。なぜならその効果が、得られたかどうかが重要なのである。 そこで、有能な経営菅理者が主観的・個別的にその効果を判断するしかないであろう。

したがって、短期的に変化せしめうるコストと変化せしめ得ないコストとに分けたような損益計算書を作成しておけば、きわめて有用な短期利益計画用の情報が得られることになる。

3)管理可能固定費と管理不能固定費

短期利益統制のためには、セグメント別個別固定費はそのセグメントの長にとって管理可能か不能かという観点から、管理可能固定費と管理不能固定費とに分類されるべきである。

管理可能個別固定費・・・当該事業部の研究開発費、広告宣伝費、維持運営費、人件費等 事業部長が管理権限を有する固定費である。

管理不能個別固定費・・・当該事業部の固定資産に関する減価償却費、保険科、固定資産 税等、事業部長は管理できないが当該事業部で個別に消費している固定費

【参考】共通固定費→管理不能費   本社費など当該事業部で個別に消費しているわけではなく、なんらかの基準で配賦されている固定費

また、マネジド・コストは、一般に管理可能回定費であるが、コミッテッド・コストは、管理不能固定費だけでなく、管理可能固定費もある。

4)各種の利益概念

次に、事業部をセグメントとした場合の、業績評価用損益計算書における、各種の段階的利益の意味するところを説明する。

A.管理可能利益 管理可能利益は、この事業部長の業績測定のために計算された利益であり、事業部長が管理可能な利益金額を示す。管理可能利益は、事業部長利益とも呼ばれ、事業部長の業績評価を示す指標となるものである。

すなわち、売上高はこの事業部長の責任であり、変動売上原価及ぴ変動販売費、管理可能個別固定費はすべて管理可能原価である。そこて、管理可能利益ば、管理可能収益から管理可能原価を差し引いた金額として与えられる。

さらに菅理可能利益も、一種の貫献利益であることを付け加えておく。管理可能利益は、管理不能個別固定費及ぴ共通固定費配賦額を回収し、全社的利益を生み出すための、事業部長の貢献額を示している。

B.事業部利益(セグメント・マージン) 当該事業部の直接的な利益業績を示す。 但し、管理不能費を含んでいるので、事業部長の業績を評価する基準とはなり得ない。

C.事業部営業利益 当該事業部の最終業績を示す。売上高から総原価を差し引いた金額である。

2015-03-21 | Posted in 意思決定会計No Comments » 
Comment





Comment